中上健次の小説では、短篇連作『千年の愉楽』、長篇『日輪の翼』、そして『奇蹟』、どれか1作に絞ろうと思って、悩んだ末、本作にした。選べない中であえて選んだのは個人的な思い出のゆえ。
20代も後半に入ってからようやく就職し、通いはじめた上野ゼミ(『木曜日』の発行母体)。はじめて訪れたその日のテキストがこの小説だった。当時、文庫になったから、とテキストにしたらしいが、箱入ハードカバーを持っていった私に師は、文庫が見つからなかったのかと訊いた。「いえ、持っていたんです」誇らしげに答えたのだった。
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